
地域に新たな産業やビジネスモデルを創出することを目指している武蔵野銀行。農業の生産者が儲かっていないという課題に直面した当行がハブとなり、農家や企業、行政と連携したプロジェクトを立ち上げました。銀行員自らの手で米や小麦などを生産し、開発した製品を販売する――。地域活性化を目指し、埼玉県の新たな名産物を生み出す大胆な取り組みは、10年以上の歴史の中でどのように発展してきたのでしょうか。地域サポート部のT.Hさんと地域商社・むさしの未来パートナーズのY.Yさんに、プロジェクトの成果や今後の展望を伺いました。
プロジェクトの背景・課題・目的
生産販売を自らの手で。銀行が農業に取り組む意義とは。
― なぜ銀行が農業のプロジェクトを始めることになったのですか?
T.H:
原点は2008年、熊谷市が40度以上の最高気温を記録したことを受けて、行内で環境に対する意識が高まったことでした。そして、環境関連の県内の主要産業を調査する中で農業にたどり着き、調査を進めていくと「農業の生産者が儲かっていない」という課題にぶつかったのです。銀行として2次産業、3次産業のお客さまのつながりが数多くあるので、1次産業の生産者と企業をマッチングすれば農業に新しい風を吹き込めるのではと考えました。
― 武蔵野銀行が取り組んでいる農業プロジェクトについて教えてください。
T.H:
地域ならではのストーリーを持つ農作物を調べるなかで、まず見沼区の小麦に着目しました。近くには五穀豊穣を祈願し米麦などの地域農業を守る氷川神社が鎮座し、古代から小麦が生産されているエリアでありました。そのような由緒ある地域の小麦で付加価値の高い製品を作るべく、農商工のビジネスマッチングを目指す「見沼たんぼ小麦6次産業創業プロジェクト」を立ち上げました。また、2023年には「むさしのアグリイノベーションプロジェクト」が発足。銀行員が自ら米作りを行うことで農業の理解を深め、地域農業の課題解決と活性化を目指しています。
Y.Y:
2022年に設立された「むさしの未来パートナーズ(以下MMP)」は、農業プロジェクトで開発された製品を、武蔵野銀行グループが自ら販売するミッションを遂行しています。酒販免許を取得したこともあり、お酒から食品まで幅広い製品の販路を構築できています。

実現ストーリー
付加価値の高い製品を開発。それが地域を盛り上げる。
― 農業プロジェクトで印象的だったことを教えてください。
T.H:
「見沼田んぼ小麦6次産業創造プロジェクト」の始動にあたり、農業関連事業者やさいたま市、大学や研究機関、飲食業や製造業のお客さまとともに研究会を発足。開発可能な商品を模索しました。また、当行地域サポート部のメンバー自ら、小麦の種まきや収穫を実践。初めて刈り取った瞬間は、心の底から喜びが沸き上がってきました。しかし、少量生産ゆえにコストが高く、パンや菓子、麺類といった単価の低い製品に使うことが難しいと判明したのです。
― どのように課題を解決したのでしょうか?
T.H:
取引先の氷川ブリュワリー様から「小麦を使ったビールを作ってみたい」と打診いただいたのが、大きな転機になりました。見沼田んぼでの小麦生産にも参加いただき、試行錯誤を重ねた末に誕生したのが『さいたま育ちWheat』。報道機関を招いて試飲会を開催したところ、「とても飲みやすく美味しい」と好評で、新聞やSNSを通じて広まりあっという間に売り切れました。また、作物の付加価値を上げるために、B級品の野菜や果実を用いたシャンプー、化粧品といった製品開発にも取り組んでいます。「何かに挑戦したい」と考える農家の皆さまのパートナーとして、現在も新たな取り組みを続けています。
― MMPのプロジェクトで印象的だったことはありますか?
Y.Y:
原料を加工し、製品として販売するというビジネスモデルは、武蔵野銀行としても前例のない挑戦だったため、ノウハウがない中で軌道に乗せることに苦労しました。「銀行として製品を売る目的は何か?ターゲットは誰か?」と自問自答しながら整理し、銀行内外での販路づくりに奔走。その結果、埼玉県物産観光協会と連携した催事販売や当行のノベルティとしての使用といった展開ができるようになりました。

実現したことによる成果や反響
銀行がハブになり、地域一丸となるプロジェクトの喜び。
― プロジェクトの成果や反響を教えてください。
T.H:
農業プロジェクトは10年以上継続しています。これだけ長期にわたり取り組めているのは、地域の企業や行政の力があってこそ。銀行員が自ら農作業を行ってきたことで、お客さまからの信頼も高まりました。できあがった製品を通して人々に感動を与えることができるのも、このプロジェクトに携わっているからこそ感じられるやりがいです。銀行がハブとなって行政や企業、学校などをつなぎ、一丸となって一つのことに取り組むプロジェクトは、地域を盛り上げる施策のモデルケースになるのではないでしょうか。
Y.Y:
その後も地域の企業と連携し、武蔵野銀行ブランドのうどんや日本酒、せんべいを開発しています。製品を自社開発し、自らの手で販売している銀行は全国的に見てもまだまだ少ないです。催事に出展した際も、銀行が自社製品を販売していることに大きな反響をいただけました。開発したものを埼玉県の定番のお土産へと飛躍させることをひとつの目標に、お客さまの声に耳を傾け、関係者とともにより良い製品づくりに邁進したいと思います。

今後の展望
農業の担い手を増やす。そして、地域の未来につなぐ。
― プロジェクトの今後の展望をお聞かせください。
T.H:
埼玉県は首都圏にありながら、農業産出額は全国8位という農業地域でもあります。農業の担い手や生産量が減少してしまうと、埼玉県らしさを失うことにもつながるでしょう。地域の強みを未来に残すためにも武蔵野銀行が中心となって働きかけ、付加価値のある製品づくりに関わり、農業の担い手を増やしていくことが目標です。また、サーキュラーエコノミー(循環型経済)への意識もますます重要になっていくことでしょう。地球に優しく持続可能性の高い取り組みを、企業や行政などと連携して継続したいと思います。
Y.Y:
製品に付加価値を付けて販売し、利益を上げることの難しさを身をもって体験できたことは、銀行員として大きな成長となりました。MMPに関わるメンバーが増えることは、お客さまである経営者と同じ目線で話し、課題感を共有できる銀行員が増えることにもつながります。今後も真摯に製品開発と販路拡大に向き合い、埼玉県らしい新たな名物を作っていきたいと思います。それが話題となり、地域の盛り上がりに貢献できれば本望です。


